事業承継は多くの企業が悩みを抱えている問題
会社や事業を残していきたいと考える場合、事業承継を行う必要があります。しかし、事業承継は専門知識がないと難しく、なかなか専門家に相談しながらでも少しずつしか進捗しません。
周りの企業がどのように進んでいるか気になるものの、「事業承継を行っている企業が周りにいない」「周囲に相談しにくい」と悩みを抱える人も多いようです。
そんな中、帝国データバンクや中小企業研究センターでは、多くの経営者に情報発信できるよう、事業承継に関するアンケート調査を実施しています。
アンケート調査からどのような対策を行っていくべきなのか、実際に発生した課題や対策などを解説していきます。
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目次
事業承継とは?
事業承継は、会社や事業を後継者へ承継していくことを指します。
経営権だけでなく経営者の意志や社風もそのまま引き継ぐ事業承継ですが、様々な事業承継方法が存在するため、経営者や会社の状況に合わせて方法を選ぶのが好ましいです。
方法としては経営者や投資家に買収・合併をしてもらう「M&A」、子どもや親族に託す「親族内承継」、従業員や外部の人から後継者を探す「従業員承継・親族外承継」が挙げられます。
事業承継計画の有無・進行具合はどのくらい?
たくさんの経営者が悩みを抱えている事業承継ですが、進行度合いについて気になる人も多いのではないでしょうか。
帝国データバンクが実施した12,000社対象のアンケート調査によると、結果は下記のようになっています。「進んでいない」「計画がない」と回答している企業を合わせると約半分程度になります。
さらに事業承継が終わっている企業は1割~2割程度なので、事業承継が終わっている企業は少ないことがアンケートからわかります。
事業承継は経営上の優先問題だと考えている企業でも、計画が進んでいる状態のところは半分以下であるため、アンケート結果から進捗具合も芳しくないことがわかります。
【事業承継計画の有無・進捗具合】
計画が進められている | 計画はあるがまだ進んでいない | 計画はない | 事業承継が終わっている | わからない | |
---|---|---|---|---|---|
全体 | 18.7% | 21.1% | 34.8% | 12.3% | 13.1% |
最優先問題と認識 | 46.0% | 27.5% | 13.5% | 10.3% | 2.6% |
経営上の問題と認識 | 20.4% | 29.8% | 34.3% | 9.6% | 6.0% |
経営上の問題と認識していない | 8.4% | 5.8% | 56.0% | 23.5% | 6.4% |
※参照:帝国データバンクによるアンケート調査
後継者不在問題で悩む企業はどのくらい?
・年代別推移
・地域別割合
なかなか進捗が進んでいない事業承継ですが、他にも帝国バンクのアンケート調査では、後継者不在で悩む企業の割合について調査結果が挙がっています。
年代別の推移と地域別の割合についてアンケート結果を紹介しながら解説していきますので、参考にしてください。
年代別推移
全国の約26万社に対して後継者不在状況をアンケート調査したところ、2020年には約17万社程度にあたる65.1%が不在だと回答しています。
アンケートを見てみると2011年の段階では65.9%となっており、2018年まで年々増加傾向にありましたが、2019年と2020年は下降傾向にあり、少しずつ後継者不在問題は解消されつつあります。
しかし、6割~7割近くが後継者不在で悩みを抱えていることがアンケート調査からもわかるため、大きな問題として注目する必要があります。
【後継者不在状況】
2011 | 2014 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
30歳未満 | 88.8 | 92.9 | 94.5 | 92.1 | 94.1 | 91.9 | 92.7 |
30代 | 89.6 | 90.7 | 91.3 | 92.4 | 92.7 | 91.2 | 91.1 |
40代 | 85.9 | 87.4 | 88.0 | 88.1 | 88.2 | 85.8 | 84.5 |
50代 | 72.9 | 74.3 | 75.7 | 74.8 | 74.8 | 71.6 | 69.4 |
60代 | 54.5 | 53.9 | 54.3 | 83.1 | 52.3 | 49.5 | 48.2 |
70代 | 42.7 | 42.6 | 43.3 | 42.3 | 42.0 | 39.9 | 38.6 |
80歳以上 | 34.1 | 34.2 | 34.7 | 34.2 | 33.2 | 31.8 | 31.8 |
全国平均 | 65.9 | 65.4 | 66.1 | 66.5 | 66.4 | 65.2 | 65.1 |
※参照:帝国データバンクによるアンケート調査
地域別割合
年代別のアンケート調査では、全国平均65.1%が後継者不在で悩みを抱えているという結果になっていますが、地域別に見ると下記のようになっています。
アンケート結果を見ると地域の中でも沖縄は81.2%になるため、全国平均を大きく上回っている状況です。
他にも北海道や中国地方が約7割を超える結果になっていますが、中国地方も2011年と比べると2020年は6.5%も上昇しているため、後継者不在で悩みを抱えている経営者が急増していることがアンケート結果からわかります。
どの地域でも半分以上の企業が後継者不在で悩みを抱えていることがわかるアンケート結果となっており、深刻な問題として考える必要があります。
【地域別割合】
2011 | 2014 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 71.8 | 72.8 | 74.0 | 74.0 | 73.5 | 72.9 | 72.4 |
東北 | 65.3 | 65.0 | 64.0 | 64.6 | 64.8 | 65.3 | 65.2 |
関東 | 67.9 | 66.3 | 67.4 | 68.1 | 67.8 | 65.9 | 65.2 |
北陸 | 56.4 | 56.8 | 55.7 | 57.1 | 58.2 | 57.4 | 57.7 |
中部 | 65.6 | 65.6 | 66.5 | 67.3 | 65.9 | 64.1 | 64.4 |
近畿 | 68.6 | 68.7 | 68.7 | 67.9 | 68.2 | 66.6 | 66.3 |
中国 | 71.3 | 71.5 | 71.1 | 70.6 | 70.4 | 70.6 | 70.8 |
四国 | 49.0 | 48.7 | 50.7 | 52.2 | 52.8 | 54.5 | 55.5 |
九州 | 57.7 | 57.7 | 59.9 | 60.7 | 61.2 | 62.2 | 62.7 |
※参照:帝国データバンクによるアンケート調査
実際に事業承継を行った企業が苦労したことは?
日本全体でも問題になっている事業承継問題ですが、実際に事業承継を行った企業が苦労したことがどういったものなのか気になる人も多いのではないでしょうか。
帝国データバンクは、事業承継を行う上で苦労したことについて複数回答ありでのアンケート調査も実施しています。
下記のアンケート調査結果からもうかがえるように、「後継者の育成や税金対策で苦労した」と感じている経営者は多いです。
発生しがちな課題を事前に把握しておくと対策を練りやすいため、事業承継の計画策定を行う際はアンケートのデータをぜひ参考にしてください。
【事業承継を行う上で苦労したこと 対象:3,719社】
苦労したこと | |
---|---|
後継者の育成 | 48.3 |
相続税や贈与税等の税金対策 | 31.7 |
自社株などの資産の取り扱い | 30.5 |
後継者の決定・選定 | 28.2 |
後継者への権限の移譲 | 26.4 |
従業員の理解を得る | 25.5 |
将来性や魅力の向上 | 21.8 |
事業承継を行う上で必要な情報収集や知識の取得 | 20.4 |
経営者の個人保証や担保外し | 16.8 |
金融機関の理解 | 16.3 |
※参照:帝国データバンクによるアンケート調査
アンケート調査から考えるべき事業承継時のおすすめの対策
・早期の計画策定
・自社や経営者に合わせた節税対策
・後継者育成スクールやセミナーの活用
・マッチング支援サービスの利用で早めの後継者探し
・従業員や取引先との関係づくり
上記の5つはアンケート調査結果から読み取れる、事前に対策しておくべき内容です。
これから、アンケート結果を分析した上でそれぞれの対策について解説をしていきますので、事業承継を視野に入れている人は必見です。
早期の計画策定
事業承継を行いたいと考える場合は、早めの準備・計画策定が必須です。
事業承継はすぐにできるものではなく、後継者育成や税金対策・従業員の理解や情報収集など事前にやるべきことはたくさんあります。
5年から10年の目安で進めていくことになりますが、万が一の場合もあるため早めに計画を策定し、進行していくのが好ましいです。
自社や経営者に合わせた節税対策
アンケート調査結果でも苦労したという経営者が多い「節税対策」はしっかりと考えておくようにしましょう。
事業承継の方針によって贈与税の対策をとるのか、相続税の対策をとるのかが変わってきますが、節税対策を怠ってしまうと税金の支払いの影響により、承継後に経営不振に陥る会社も少なくありません。
自社や経営者の状況や方向性に合った節税対策を行うようにしましょう。
後継者育成スクールやセミナーの活用
アンケート調査結果でも回答の多かった「後継者の育成」は早期に対応するようにしてください。
後継者が親族の場合は特に経営経験がない場合が多く、そのような状態で承継すると従業員も不安に感じやすくなってしまいます。
近年では後継者に向けたセミナーや育成スクールもありますので、スクールやセミナーの活用を行い、しっかりと知識や経験を積んでもらうのが好ましいでしょう。
マッチング支援サービスの利用で早めの後継者探し
「後継者やM&A先がなかなか見つからない」という悩みを抱える企業も少なくありません。
このような場合には、マッチング支援サービスなどを利用するのがおすすめです。
マッチング支援サービスでは無料で利用できる場所も多く、専門家の支援を受けながら進めることができます。
ただし、マッチング支援サービスを利用してもすぐに後継者やM&A先が見つかるというわけではないため、早めに対策しておくのがおすすめです。
従業員や取引先との関係づくり
事業承継に関する問題で見落としてしまいがちなのが「従業員や取引先との関係づくり」です。
アンケート調査でも約4社に1社は「従業員の理解を得るのに苦労した」という結果が出ていますが、前経営者だからこそついてきた従業員も少なくありません。
親族内承継や従業員承継であれば理解を得やすいですが、外部の人に承継する場合は抵抗・不安を感じる従業員もいるでしょう。
さらに取引先との関係を疎かにしてしまうと、関係が悪化してしまう可能性も高いため、従業員・取引先ともに関係づくりが必要になります。
まとめ
事業承継に関するアンケート調査結果はWeb上でも様々なものが挙がっていますが、各アンケート結果を見ても後継者不在の問題で悩みを抱える経営者の割合が多いことがわかります。
様々な課題が出てくるため、アンケートのデータを見ながらしっかりと計画を立てて早めに行動することを心がけてください。
事業承継は内容が難しいこともあって大変に感じやすいですが、計画の策定を行い、ひとつずつ解決しながら進めていくようにしましょう。
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(編集:創業手帳編集部)