業承継を成功させるには案内文がカギ?

事業承継は、先代と後継者のやり取りだけで完結するものではありません。顧客や取引先をも巻き込んで行う大きな事業なのです。

そのため経営者は、事業承継を行う前と後で、事業承継を周知する案内文を送付する必要があります。

案内文は直接事業承継に影響はありませんが、これまで会社を支えてくれていた顧客や取引先との関係を維持するという意味で、後継者にとっては極めて重要なプロセスだといえるでしょう。

そこで本記事では、案内文をテーマに取り上げていきます。「どんな案内文を出せばよいのだろう?」とお悩みの方は、ぜひご一読ください。また、結果的に事業承継ではなく「廃業」を選択することになった場合でも、これまでの感謝を伝えるために、案内文は必ずつくっておきましょう。

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案内文の重要性

・取引先への案内文
・廃業についての案内文
・事業譲受の案内文

事業承継や廃業をする場合、どのような案内文を送ればよいのでしょうか。

例えば取引先に案内文を出す場合は、取引規模や付き合いの長さによっては、案内文を出す前に、直接挨拶に伺ったほうがよいというケースも考えられます。

とはいえ、基本的には送付相手に合わせた文面で案内文をしたためればマナーとしては問題ありませんので、「文章を書くのが苦手」という方は、行政書士などに代筆してもらうことをおすすめします。

取引先へ案内文を出す場合

取引先は「事業承継後はどのような関係になるのか」「新しい代表者は取引を継続してくれるのだろうか」といった様々な不安を抱く可能性があります。

そのために先代・後継者は、それぞれの立場から案内文をしたためて取引先に送らなければなりません。

廃業についての案内文

「事業承継ではなく廃業を選択した」「初めは事業承継をするつもりだったが、様々な事情から廃業を決断した」

このような場合でも、やはり案内文は必要です。これまで会社を支えてくれた顧客や取引先に、しっかりと感謝の気持ちを込めた案内文を作成しましょう。

事業承継の顛末を伝える案内文

事業譲渡を行う場合、たとえ事業形態に大きな変更がなかっとしても、礼儀として案内文を出し、取引先に事業承継の顛末についてしっかり説明する必要があります。

案内文を送付する適切なタイミングとは?

例えば、「これから事業承継を始めよう」と思い立ったタイミングで案内文を出すのは、果たして適切だといえるでしょうか。

事業承継は、実際に始めてみなければ、その後どうなるかわかりません。後継者が見つからなかったり、自社株の評価額が想定よりも高すぎたために、莫大な贈与税や相続税がかかってしまい、事業承継の計画そのものが頓挫してしまう可能性もあります。

そのため、まだまだ事業承継の先行きが見えないタイミングで案内文を出してしまうと、「やはり事業承継は取りやめました」「しばらくはまた現役で経営を続けます」といったように、案内文を出した相手にかえって混乱を与えてしまうことになってしまいます。

このことから、案内文を出す適切なタイミングとしてふさわしいのは、「事業承継が契約の段に入ったとき」と「事業承継が無事に完了したとき」の2つあるといえるでしょう。

事業承継のための案内文テンプレート

取引先や関係者を混乱させないためにも、以下の内容を織り込みながら案内文を書くことをおすすめします。

・案内文の書き方① 挨拶文
・案内文の書き方② 事業譲渡日
・案内文の書き方③ 事業の引き継ぎ先
・案内文の書き方④ 送り主の所在
・案内文の書き方⑤ 譲渡後の注文や問い合わせ先

事業承継の案内文を作成する上での注意点

・債務引受公告
・詐害行為取消権

事業承継を行うための案内状を作成したり送付したりする場合、主に上記の2点について注意してから作成するようにしましょう。

債務引受公告

これは特に後継者の方に注意していただきたいのですが、案内文や挨拶状の内容次第では、本来は負う義務のなかったはずの債務を背負わされてしまうケースがあります。

例えば、案内文に「これまでの債務はすべて引き継ぎます」といった内容を伺わせる文章を載せると、法律上では「債務引受公告」とみなされてしまうのです。

債務引受公告とは、読んで字のごとく、「債務を引き受けることを公然に示す」という意味になります。実際、国内の最高裁では、案内文や挨拶状に書かれた文面を根拠に、債務引受公告とみなされた判例が実在しています。

こうしたことから、案内文や挨拶状の文面については、送付する前に弁護士などに念入りにチェックしてもらうとよいでしょう。

詐害行為取消権

例えばM&Aなどで、事業承継者Aさんが、会社を譲渡してくれた相手Bさんに相応の対価を支払っていないのだとしたら、このときBさんは、Aさんに「詐害行為取消権」を発動することが出来ます。

詐害行為取消権が行使されると、AさんはBさんに十分な対価を払うまでは、他の取引で支払いを行うことが不可能になってしまうのです。

つまりAさんは、せっかく事業承継で会社を手に入れたのにもかかわらず、取引行為を自由に行えなくなってしまうわけです。「C会社に支払いをするはずだったのに、Bさんの詐害行為取消権によってC会社との取引を事実上取り消された」という状態に陥ってしまいます。

仮にAさんが、事業承継を終えたタイミングで顧客や取引先に案内文を出していたとすれば、詐害行為取消権の騒動は、取引先の心証を非常に悪くしてしまうことは言うまでもありません。

余程のことがない限り先代から詐害行為取消権を発動されることはありませんが、お互いの合意が不十分であったり、会社譲渡の対価が不透明だったりした場合は、このようなケースが起こらないとは断言出来ませんので、M&Aを行いたいなら、必ず弁護士を挟むようにしましょう。

まとめ

案内文や挨拶状は、事業承継の成功に直接影響を及ぼすわけでもなく、また法的に義務付けられているわけでもありません。

しかし、先代にとってはこれまでの感謝を、後継者にとってはこれからの信頼関係をという意味では、案内文や挨拶状はビジネス的に非常に大きな意味を持っています。

また、案内文に特定の文言を記すことで、法的なトラブルに発展してしまうケースもありますので、注意が必要です。

案内文を作成する際には、事業承継に精通している弁護士に必ず文面をチェックしてもらうようにしましょう。

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