事業承継は様々なアンケート調査が行われている
会社や事業を後世に残していくために必要な事業承継。内容が難しいこともあり、多くの経営者が悩みを抱えています。
どのような対策を行っていいのかだけでなく、事業承継の相談相手が周りにいないということから不安を感じている経営者も少なくありません。
当記事では、他の企業の事業承継はどのようになっているのか、アンケート調査から読み解く事業承継の実態について解説をしていきます。
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目次
事業承継に関するアンケート調査結果
これから、株式会社帝国データバンクや東京商工会議所・一般財団法人「商工総合研究所」のリサーチ調査について解説をします。
他の企業の状況などが気になる人は、ぜひチェックしてみてください。
後継者の決定状況
平成28年度に帝国データバンクが調査した結果によると、2025年までに中小企業・小規模事業者の経営者が70歳以上になる人数がおよそ245万人とされています。
70歳未満が136万人になるため、中小企業の経営者のうち、3人中2人が70歳以上になることがわかる結果です。
2025年には多くの経営者が引退を考えるタイミングでもありますが、70歳を超える経営者のうち、127万人が後継者未定という結果になっており、廃業・解散を視野に入れている状態となっています。
後継者の不在問題が加速していることから廃業・解散を視野に入れる経営者が多く、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があると危惧されています。
近年では国全体が事業承継に対する支援が活発化していますが、後継者不在問題や超高齢化社会が影響しています。
廃業予定企業の理由
東京商工リサーチも事業承継に関するアンケート調査を実施しており、後継者の決定状況と同年である平成28年での調査結果では、廃業を検討している理由は下記のような結果になっています。
【中小企業庁委託「企業経営の継続に関するアンケート調査」】
業績が厳しい | 37.3% |
---|---|
後継者が確保できない | 33.3% |
会社に将来性がない | 30.7% |
元々自分の代で辞めるつもりだった | 30.7% |
高齢のため(体力・判断力の低下) | 22.7% |
従業員の確保が困難 | 17.3% |
技術などの引き継ぎが困難 | 14.7% |
事業用資産の老築化 | 6.7% |
その他 | 6.7% |
※参照:東京商工リサーチによるアンケート調査
「業績を理由に廃業せざるを得ない」というイメージがありますが、実際には業績だけでなく、後継者が不在・会社の将来性が見えないという点から廃業を考える人も大半を占めています。
事業承継に関する計画の有無
事業承継は計画している企業と計画していない企業が存在し、計画の有無によっても進捗具合が大きく異なります。
下記は事業承継の計画や進捗具合に関する調査です。
【事業承継計画の有無・進捗具合 調査日:令和2年8月】
計画が進められている | 計画はあるがまだ進んでいない | 計画はない | 事業承継が終わっている | わからない | |
---|---|---|---|---|---|
全体 | 18.7% | 21.1% | 34.8% | 12.3% | 13.1% |
最優先問題と認識 | 46.0% | 27.5% | 13.5% | 10.3% | 2.6% |
経営上の問題と認識 | 20.4% | 29.8% | 34.3% | 9.6% | 6.0% |
経営上の問題と認識していない | 8.4% | 5.8% | 56.0% | 23.5% | 6.4% |
※参照:帝国データバンクによるアンケート調査
計画が進んでいる・終わっている企業は全体の平均を見ても約4割程度なので、ほとんどの企業がスムーズに進められていないといっても過言ではありません。
事業承継を行ったことで苦労した内容
事業承継が終わっている企業もありますが、事業承継の前後では苦労した内容が大きく異なります。
下記は2020年に実施されたアンケート調査の結果になります。
【事業承継を行う上で苦労したこと 対象:3,719社 調査日:令和2年8月】
苦労したこと(複数回答あり) | |
---|---|
後継者の育成 | 48.3 |
相続税や贈与税等の税金対策 | 31.7 |
自社株などの資産の取り扱い | 30.5 |
後継者の決定・選定 | 28.2 |
後継者への権限の移譲 | 26.4 |
従業員の理解を得る | 25.5 |
将来性や魅力の向上 | 21.8 |
事業承継を行う上で必要な情報収集や知識の取得 | 20.4 |
経営者の個人保証や担保外し | 16.8 |
金融機関の理解 | 16.3 |
※参照:帝国データバンクによるアンケート調査
アンケート調査結果からもわかるように、後継者の育成や税金対策・自社株の取り扱いに苦戦している経営者が大半を占めています。
事業承継は様々な問題対策を練っていく必要があるため、早めの準備が必要です。
税制利用を検討している企業の割合
事業承継の際には、相続税や贈与税などの多額の税金の支払いが発生する場合があります。納税資金があったとしても、税金の支払いによって経営不振に陥る企業も少なくありません。
こうした状態を防ぐため、日本では相続税や贈与税などの税金の支払いに関する猶予期間・免除を設ける事業承継税制が存在します。
近年では多くの中小企業に利用してもらうために、事業承継税制に関する特例措置も講じられていますが、事業承継税制を活用するかどうかについての調査は下記のようになっています。
【調査内容:事業承継税制を利用するつもりはあるか 調査日:令和2年8月 調査対象:事業承継税制を知っている376人】
相続税の納税猶予の利用を検討・準備中 | 14.4% |
---|---|
贈与税の納税猶予の利用を検討・準備中 | 6.1% |
相続税の納税猶予制度を利用(確認申請)している | 3.7% |
既に贈与税の納税猶予制度を利用している | 4.5% |
制度の利用を税理士等に相談しようと思っている | 34.0% |
利用するつもりはない | 37.2% |
※参照:帝国データバンクによる調査結果
「事業承継税制を利用するつもりはない」という回答は4割ほどという結果になっています。同時に、税理士に相談した上で利用を考えている人も多いようです。
事業承継を行う際の相談先
事業承継は内容が難しいので、どこに相談をしたらいいのかわからないと悩みを抱える経営者も多いでしょう。
下記は事業承継を行っている・行った経営者が実際に相談した場所です。
【相談先について 対象者:1,653人 複数回答あり】
税理士 | 52.6% |
---|---|
親族 | 28.9% |
取引先金融機関 | 28.9% |
親族以外の役員や従業員 | 23.5% |
他社の経営者 | 21.6% |
公認会計士 | 16.4% |
その他 | 12.2% |
経営コンサルタント | 12.2% |
弁護士 | 9.7% |
商工会 | 2.2% |
※参照元:平成28年 帝国データバンク調査
調査結果からもわかるように、相続税や贈与税などの税金・資産税に対して考える必要があるため、税理士に相談するケースが多くなっています。
事業承継後に取り組んだこと・力を入れた内容
事業承継を実際に進めてみてから、業績状況について気になる経営者も多いのではないでしょうか。
2020年8月段階での調査結果では、業績が良くなったと回答している企業は約5割で、逆に悪くなったという企業は1割弱です。
【調査内容:事業承継後の業況 調査対象:959人】
業績が良くなった | 50% |
---|---|
業績が悪くなった | 14% |
業績は横ばい | 36% |
参照:帝国データバンクによるアンケート調査
業績が良くなったという経営者が半分を占めていますが、実際に事業承継後に力を入れている内容は下記のようになっています。
【調査内容:事業承継後に新たに取り組んだ内容 調査対象:960人(複数回答あり)】
新たな販路開拓・取引先拡大 | 52.1% |
---|---|
ビジョン、ミッション、経営理念等の明確化 | 32.7% |
新商品・新サービスの開発 | 32.2% |
中期計画等、事業計画の策定 | 28.5% |
管理会計の導入等、経営の見える化 | 22.9% |
先代と異なる取組みは行っていない | 14.9% |
赤字事業からの撤退 | 13.4% |
異業種への参入 | 9.1% |
その他 | 3.1% |
参照:帝国データバンクによるアンケート調査
アンケート調査結果から読み解く事業承継の実態
・事業承継に対する意識の差
・想定する苦労と実施後の苦労の差
・課題に適した機関を活用する
ここまで、たくさんのアンケート調査について解説をしていきましたが、次はアンケート調査結果から読み解く実態について解説をしていきます。
どのような実態になっているのか気になる人は以下を参考にしてください。
進捗は意識差が大きい
事業承継に関する計画の有無の調査結果からもわかるように、事業承継の進捗状況は意識による差が大きくなっています。
最優先の課題だと考えている企業の約5割は計画が進んでおり、1割が終わっていますが、最優先に考えていない場合は約1割~2割程度の企業しか進んでいません。
計画を進めていくためには、最優先の課題として捉えることが重要です。
実際に考える課題と実施後の苦労した内容は違う場合が多い
さらに、事業承継を行った上で苦労した内容では、後継者の育成に苦労したという企業や税金対策・自社株などの資産の取り扱いに苦労したという企業が多いですが、想定していた結果とはやや異なります。
事業承継で苦労しそうなことを調査した結果によると、1位が55.4%の「後継者の育成」、2位が44.6%の「後継者の決定」、3位が25.5%の「従業員の理解」となっています。
税金対策に関しては19.0%で6位、資産の取り扱いは19.6%で5位となっており、周りの理解を得る・後継者を決めるほうが大変だと認識している経営者が多いようです。
結果にズレがあることからもわかるように、税金対策や資産の取り扱いについてしっかりと対応しておくのが好ましいです。
課題に合わせた相談先の検討が好ましい
事業承継に関する相談は、税理士に相談する企業が多いものの、課題に合わせた相談先の検討が必要になります。
相続税や贈与税など節税対策はもちろん、相続後に生じるトラブルやM&Aに関するトラブルにも強いのは税理士です。
一方、後継者探しやM&A先探しに強いのは金融機関や経営コンサルタントになるため、課題に合わせた相談先を検討しましょう。
知っておきたい支援内容
途中でも紹介していますが、事業承継問題は国全体の問題となっているため、様々な支援が国から行われています。
特に事業承継時に活躍してくれるのが、税金の支払いに関する猶予期間の設定・免除をしてくれる事業承継税制や、事業承継後に新しいビジネスを考えている企業に対する補助金です。
どちらも専門的知識や複雑な条件が必要になるため、専門家に相談して活用できるかどうか検討しましょう。
事業承継に関するおすすめの相談先
・事業承継/引継ぎ支援センター
・日本政策金融公庫
・M&A総合研究所
・税理士法人山田&パートナーズ
上記の4箇所は、事業承継に関する相談を多くの経営者から受けている場所になります。
それぞれの特徴について解説をしていきますので、参考にしてください。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは47都道府県全国各地に存在し、独立行政法人「中小機構」が運営をしています。
経済産業省から委託されている専門機関で、事業承継に関するマッチング支援や事業承継の計画策定支援などにも取り組んでいます。
全国各地に拠点が存在するため、住んでいる場所は問わずに足を運びやすいという点が魅力です。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、政府系金融機関として知られていますが、事業承継に関するマッチング支援や融資に関する支援を実施しています。
マッチング支援は無料で利用できる上に、事業承継に詳しい専門家が丁寧にサポートしてくれます。
「納税資金を得たい」「事業承継後の安定化を図りたい」と考えている場合は、条件が複雑ではあるものの、条件が通ると他の金融機関と比べて好待遇での融資を受けることも可能です。
M&A総合研究所
M&A総合研究所は、M&Aや事業承継に関する仲介会社として人気があります。
着手金や中間金が必要のないリーズナブルな仲介会社としても知られていますが、他には専門機関に負けない知識・ノウハウを持った会社としても有名です。
Web上でも事業承継に関する情報発信をしており、初めての人でもわかりやすい点からも人気となっています。
後継者探し・M&A先探しで迷っている人や、事業承継・M&Aに関する情報収集をしたいと考えている人におすすめの相談先です。
税理士法人山田&パートナーズ
税理士法人山田&パートナーズは、相続税や贈与税などの資産税に詳しい税理士が多いだけでなく、事業承継やM&Aに関するコンサルティングも実施する税理士法人です。
節税対策や事業承継に関する計画の策定・市場価値調査など、事業承継やM&Aに関する工程を経営者・後継者とともに二人三脚で対応してくれます。
事業承継や資産税に特化している税理士も少ないため、顧問弁護士が資産税に詳しくない場合、事業承継に関する実績が少ない場合は山田&パートナーズに相談するのがおすすめです。
まとめ
様々なアンケート調査について紹介しましたが、事業承継を進めていくためには最優先の課題として捉える必要があるとともに、早めの準備が必要になります。
事業承継に関する相談をしたいのであれば、自社に合った相談先を探すのが好ましく、一つひとつ課題を解決しながら進めるのがおすすめです。
多くの課題の対策を練る必要があるため、早めに行動していくようにしましょう。
(編集:創業手帳編集部)