事業承継における覚書の重要性

中小企業には高齢の経営者が多く、次の世代に事業や会社を引き継ぐために事業承継を行う企業が増えています。

事業承継には親族内承継、親族外承継、M&Aの3種類がありますが、どの方法であっても承継する側と承継される側の両者で決めたことを『覚書』として残しておく必要があります。

契約を交わす前に取り決めたことを覚書として残しておけば、後にトラブルが起こる可能性が低くなるからです。

そこで今回は、事業承継における覚書の特徴や契約書との違いについて解説しますので、事業承継を検討している方は参考にしてください。

 

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覚書・契約書・合意書の違い

・覚書
・契約書
・合意書

事業承継では事業の譲渡のほかに株式譲渡や税金対策なども生じるため、上記の3点を作成し、書面として残しておく必要があります。

ここでは、覚書・契約書・合意書の違いについて説明します。

覚書

覚書は起こった出来事について記録し伝達するための文書で、契約の前に売り手と買い手が相談の上合意した内容を書面化する目的で作成されます。

覚書には契約書を補助する役割がありますが、契約書と同様に法的効力があります。また、覚書を作成した後でも、新たに決まったことを追加できるので便利です。

契約書

契約書は、売り手と買い手が事業承継について話し合い、それぞれの権利と義務を記載するための文書です。

口頭での約束でも契約は成立しますが、文書として残しておかなければ訴訟やトラブルにつながるので、契約書を作成し、それぞれの権利と義務を文書として残しておきましょう。

契約書にはビジネスを円滑にして損害リスクを回避する役割もあり、取引条件や契約が守られなかった場合の違約金などを明確にすることができます。

合意書

合意書は協定書とも呼ばれ、契約が終了した時やトラブルが解決した時などに、売り手と買い手の話し合いの内容を書面に残すために作成されます。

合意書は、以下の場合に作成します。

・事業承継の契約内容が確定しなかった場合に取引条件を相談する時
・事業承継の契約で想定しなかった事態に対処する時
・不法行為などによって損害を受けた際に相手に責任を認知させる時

合意書または協定書に記載された事項は、契約書に記載がない場合でも効力を持ちます。

 

事業承継のトラブル回避に役立つ覚書

事業承継の契約書の前に、譲渡する側と譲渡される側が相談したことを覚書に記録すれば、事業承継の契約を締結した後の訴訟トラブルを回避できます。

「覚書に法的効力はない」と思っている人は少なくありませんが、契約書と同様に法的効力があるので、覚書の必要性は高いと言えます。

事業承継において契約が締結された後でも、承継中に新しい取り決めが行われた場合は追加することができます。

 

覚書が必要な理由

事業承継によって会社を後継者に引き継ぐにあたっては、株式譲渡や税金対策など複雑な手続きが発生するため、当事者間で決めたことはすべて覚書に記録しておくことをおすすめします。

口頭で交わされた取り決めにも法的効力はありますが、打ち合わせで何を話して何が決まったのか、当事者でも忘れてしまうことがあります。

交渉中や交渉後に組織編成や雇用状況などが変わる可能性もあるため、トラブル防止のためにも覚書を作成しておくことをおすすめします。

 

事業承継における覚書の重要性

トラブルになり得る事項について、共通認識を確認することが覚書の目的です。したがって、事業を承継する側と引き継ぐ側の解釈の違いによって契約内容が不明確になった時こそ、覚書が役立ちます。

事業承継では、現経営者と後継者の間で取り決める事項が多いでしょう。また、会社の仕組みや従業員の雇用状況が変わることもあります。その他、取引先や金融機関との調整についても、何かと取り決めることがありはずです。

「契約書を交わすまでの間に権利や義務をはっきりさせたい」「社内のルールなので契約書を交わすほどでもない」といった時に、覚書を活用しましょう。

 

覚書に記載すべき項目

・事業譲渡について
・事業譲渡を実行する時期
・譲渡の条件
・資産などの譲渡
・負債の譲渡
・調査と資料の提供
・守秘義務について
・協議事項
・解除条件

覚書に記載すべき主な項目は、上記の9点です。

ここでは、例文とともに各項目について説明しますので、覚書を作成する際に参考にしてください(甲は承継する側、乙は承継される側)。

事業譲渡

甲は乙に、首都圏に展開される◎◎という事業を譲渡する。

事業譲渡の時期

甲は乙に対して、令和〇年〇〇月〇〇日までに事業を譲渡する。

譲渡条件

甲は乙に対して、◎◎社で運営されているすべての事業を譲渡する。

乙は、事業に関わる各支店の従業員をできる限り継続して雇用する。

資産などの譲渡

甲は、甲が運営する事業に関わるすべての資産を乙に譲渡する。

負債の譲渡

乙は、甲の事業に関連する買掛金、借入金、リース、その他の負債をすべて引き受ける。

調査と資料提供

乙は事業を引き継ぐにあたって、甲に対して必要な調査を行うことができる。

守秘義務

甲と乙は、当該の事業譲渡に関連する情報を一切外部に漏らさない。

協議事項

覚書に定めていない事項や疑義が生じた事項については、原契約に則って協議を行うものとする。

原契約に定めがない場合は、甲と乙、第三者の丙が協議して解決することとする。

解除条件

合理的な理由で協議が進まない場合は、甲と乙は覚書で合意した内容に基づいて解除を申し込むことができる。

 

まとめ

事業承継では株式譲渡や税金対策など複雑な手続きが生じることもあるため、契約を締結する前に事業を承継する側と引き継ぐ側の間で行われた協議で決まったことを、覚書として残しておいたほいうが良いでしょう。

口約束でも契約は有効ですが、覚書を残しておけば後にトラブルが発生しにくくなるので、おすすめです。

契約において地位などを移転する場合は、事業を承継する側と引き継ぐ側だけでなく、事業に関係する第三者の承諾も必要です。

なお、会社法では事業譲渡における債権者保護に関する規定はありませんが、事業譲渡においては債権者にもリスクが生じるため、民法の詐害行為取消権によって取り消しができるかどうかも確認しておきましょう。

 

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